不動産投資判断の核心はシンプルです。供給が止まる(または伸びない)なら、価格は上がる。 そして、現在のカナダ主要都市、とりわけバンクーバーとGTA(トロント大都市圏)は、まさにその道筋をたどっています。
1) 市場の“いま”:新築は事実上の停止状態
GTAの新築販売(2025年8月):販売戸数は300戸。前年同月比で42%減、過去10年平均と比べて81%減。コンド販売はわずか118戸、累計でも10年平均の約1/10にとどまり、プリセールは“低迷”ではなくほぼ消滅。
他地域への波及:バンクーバーの新築活動も平時の約3分の1に縮小。オタワ、Kitchener–Waterloo、カルガリーにも減速の兆候。
先行指標の意味:プリセールの失速 → 数年後の着工数減少が確実視される。つまり、現在の販売減少は数年後に供給不足として表面化するということです。
要するに、供給サイドの枯渇が進行中。これは中期的な価格上昇リスク=投資家にとっての上昇ポテンシャルを示します。
2) 2032年シナリオ:バンクーバーは“2.8M超え”がベースライン
「Breaking Ground: AI-Driven Analysis of How Policy Reform Can Unleash Canadian Housing Supply 」レポート(Concordia University 他, 2025年7月)では、このモデルの起点(2024年時点)と2032年予測を以下のとおり示しています:
バンクーバー(中央値・実質ベース):およそ2.5Mドル → 2032年には約2.8Mドル(現状の供給ペース)
供給を“倍増”すると2.5百万ドル前後で横ばいに近づく。
トロント(中央値・実質ベース):およそ1.4Mドル → 2032年には1.8Mドル(供給倍増で1.6Mドル)
モントリオール:およそ74万ドル → 80万〜90万ドル(供給を増やしても短期は上昇が続く)
カルガリー:およそ74万ドル → 65万〜73万ドル(人口動態の影響が大きく、供給増で抑制効果)
注意:上記は “HPI(ホームプライスインデックス)”ではありません。 HPIは「標準化した代表的住宅の価格」を時系列比較する指標で、現在のメトロバンクーバーHPIベンチマークは概ね1.15Mです。一方で、Breaking Ground−の“2.5M→2.8M”は“中央値(median)”の推計値で、高価格帯の構成比など市場ミックスの影響も反映されます。
3) なぜ供給が増えないのか(増やしにくいのか)
規制・承認の遅延:市町村レベルの規制を10%緩和すると、完成戸数はおよそ10%増加。承認遅延を10%短縮すると、さらに約3%増加。
コストショック:資材・手数料・労務などの入力コストが10%上昇すると、完成戸数は25〜35%減少。特に集合住宅(高密度)で感応度が高い。
労働力・金利:技能労働の供給制約、金利高・金融条件の引き締めでプロフォーマが合いにくい。
4) 政策の動きと限界
連邦の新機関(Build Canada Homes):130億ドル規模の投資で非市場住宅を中心に供給拡大を狙うが、市場価格のトレンドを反転させるには力不足の可能性。
開発負担金(DCC/DC)見直し:バンクーバーやトロントでは新築価格の約2割が税・手数料。しかし部分的に削減しても価格トレンドを変える効果は限定的。
5) 投資家にとっての示唆
供給が停滞 → 将来的に深刻な不足。
需要は継続 → 移民・人口増加が需要を下支え。
価格は上昇トレンドを維持 → バンクーバーは2.5Mドルから2.8Mドル超、トロントは1.4Mドルから1.8Mドルに到達見込み。
つまり、価格が下がるシナリオは極めて限定的です。投資家にとっては「今が参入のタイミング」。長期視点で見ると、今日の取得が将来の大きなリターンにつながる可能性が高いのです。
6) 投資アクションのポイント
時間分散でエントリー:今後1–2年にわたり段階的に取得。供給不足が価格に波及する前にポジション確保。
需要が堅いエリアに集中:交通利便性(SkyTrain/TOD)、学校区、日常利便性の高いエンドユーザー向け物件を優先。
キャッシュフロー耐性を試算:金利・管理費・地税の上振れを織り込んだシナリオを準備。
プリセールは慎重に:建設コストや金利のリスクを踏まえ、契約条項・保全を厳格チェック。
戸建てと集合の見極め:規制緩和の恩恵は戸建ての方が大きい。集合はコストに敏感。
既存ストック再生:改修・賃料改善などで短期的に利回り向上を狙う。
出口戦略を設計:2030〜2032年の需給タイト化をメインシナリオに、売却・リファイ・賃料改定を組み合わせ。
結論
データは明確です。バンクーバーの住宅価格は今の2.5Mドルから7年後に2.8Mドル超。政府が供給を倍増できても2.5Mドルに抑えるのが精一杯。供給不足が解消されない限り価格は上がる一方です。
だからこそ、投資家が取るべき最適解は、いまの縮小局面で厳選し、耐性あるポジションを築くこと。これが、次の10年で資産を最大化する合理的な戦略です。
本記事は公開情報や調査レポートに基づいた分析であり、将来の価格動向や投資成果を保証するものではありません。市場は金利、規制、人口動態、世界的な経済環境など多様な要因によって変動します。投資判断は必ずご自身の責任で行い、必要に応じて複数のデータや専門家の助言を参考にしてください。